Activities

2025

千葉大学理学研究院 教授 北畑裕之

研究課題名:Pattern formation dynamics in active systems with nonreciprocal interaction
派遣先:ミュンスター大学
受入研究者:Prof. Uwe Thiele
非相反相互作用を含む系におけるパターン形成ダイナミクスに関する研究は近年盛んに研究が進められている。申請者らは非相反相互作用を含むSwitf-Hohenberg方程式について、非相反性と非平衡性に対応するパラメータを変化させると、定常的な空間周期構造や時間的に振動する空間商機構造、進行波パターンなど様々な時空間秩序を示すことを明らかにしてきた(Tateyama et al. Phys. Rev. E 2025)。力学系として捉えた時に、余次元の高い特異点が現れることは見出していたが、その特異点周りの解析については今後の課題としていた。この高い余次元の特異点の周りの構造は様々なパターンが生まれるメカニズムを明らかにするために重要である。Uwe Thiele氏と議論する中で、この特異点周りの数理構造を解析する方法を発想し共同研究を続けている。さらには、他の非相反相互作用を含む系におけるパターン形成に関係する数理構造を普遍的に明らかにする方法論についても、いくつかの方法を発想しており、それに関する議論も行う予定である。

千葉大学理学研究院 博士後期課程 楯山裕太

研究課題名:Steady-state solution structure in spurious gradient dynamics with and without conservation laws
派遣先:ミュンスター大学
受入研究者:Prof. Uwe Thiele
連続秩序変数を持つ自由エネルギー汎関数の緩和ダイナミクスを記述する勾配系ダイナミクスに,作用・反作用の法則を満たさない非相反な相互作用を導入した擬勾配系ダイナミクスは,近年,アクティブマター物理学,非平衡統計力学,パターン形成の物理学などの観点から盛んに研究されている。Thiele教授やGreve氏は擬勾配系の分岐理論や相分離理論に関する第一人者であり,申請者とその共同研究者である北畑裕之教授,伊藤弘明助教,好村滋行教授も擬勾配系の時空間パターン形成に関する研究を行ってきた。我々は,擬勾配系において共通の自由エネルギー汎関数を持った保存系・非保存系において,適切な外部化学ポテンシャル項を導入することで両者に共通する定常解を構成できることを見出している。本研究では,この共通する定常解の性質を分岐理論や相分離理論の観点から精密に調べ,安定性の比較や,非相反性の役割を理解し,非相反相互作用系の数理構造の解明に貢献することを目標とする。

九州大学大学院理学府 物理学専攻 博士後期課程 松清洋輝

研究課題名:円形チャネルに閉じ込められたアクティブネマチックのシミュ レーション / A numerical simulation of active nematics confined in a circular channel
派遣先:ベルリン工科大学(TUB)
受入研究者:Prof. Holger Stark (TUB)
アクティブマターに関しての理論およびシミュレーションの研究を行っている Stark 教授のも とで,配向秩序を示すアクティブ流体である「アクティブネマチック」の連続体理論に基づくシミュレーションおよび,その結果の理論的考察に取り組んだ. シミュレーションのセットアップは,アクティブネマチック中に円形の障害物を設置するとい うものである.このとき,障害物周りに,配向場の特異点である「トポロジカル欠陥」が現れ る.私は,このトポロジカル欠陥が障害物周りでどのような配置を取るかという問題に取り組んだ.まず,アクティブネマチックの連続体モデルで,アクティビティをゼロにすると,モデルはネマチック液晶のものに帰着する.ネマチック液晶の場合には,比較的簡単な解析計算により欠陥の定常的な配置を計算することができ,その結果は連続体シミュレーションの結果と良く一致することがすでに知られている.一方で,アクティブネマチックの場合には,アクティブ応力に誘起される流れの影響を受け,トポロジカル欠陥の配置がネマチック液晶の場合から変化すると予想される.この配置がどのように変化するのか,それは理論的にどのように説明できるのか,という問題に,私は以下のように取り組んだ. 私はまず,アクティビティが小さい場合の振る舞いをシミュレーションによって調べ,ネマチ ック液晶の場合からずれた定常配置に落ち着くという結果を得た.さらに,ネマチック液晶の場合の解析計算に流れの効果を取り入れて計算を行い,シミュレーション結果に理論的考察を与えることができた.以上はアクティビティが小さい場合の定常的な配置の研究だが,次に,アクティビティを大きくしたときの振舞を調べた.このとき,円形障害物周りのトポロジカル欠陥の配置は,定常状態に落ち着くことなく,不規則な運動を示すようになった.アクティビティをさらに大きくすると,多数のトポロジカル欠陥が不規則に動き回る,アクティブ乱流状態に移行した.派遣期間の後半に,定常配置から乱流状態に移行する転移現象の研究に取り組んだが,まだ詳細な解析は行えておらず,これには今後も引き続き取り組む. 以上のように,Stark 教授や,その研究室メンバーとの議論により,想定していた以上に研究 を進めることができた,また,研究以外にも,研究室メンバーとの昼食などの交流により,多様な価値観に触れ,視野を広げることができた.さらに上述のように,乱流状態への移行段階の研究は特に未完成の部分であり,今後も Stark 教授と連携をとり,この研究を発展させていこうと考えている.

2024

千葉大学理学研究院 教授 北畑裕之

千葉大学理学研究院 博士後期課程 楯山裕太

京都大学大学院工学研究科 教授 山本量一

国際会議名:CECAM workshop “Out-of-equilibrium softmatter: challenges and perspectives”
開催場所:University of Lincoln (UK)
講演題目:Propulsion of a microswimmer near liquid-liquid interface and a chiral swimmer in viscoelastic fluids

京都大学大学院 工学系研究科 博士後期課程 小林巧弥

研究課題名:Hydrodynamic Interactions of Microswimmers
派遣先:University of Cambridge
受入研究者:Dr. Ronojoy Adhikari
マイクロスイマーは微生物や人工的に作られた自己推進する微粒子などを指し,非平 衡統計力学において注目されている.マイクロスイマーの泳動メカニズムや運動パタ ーンを理解するには,流体力学の正確な理解が必要不可欠である.そこで,本研究で はマイクロスイマーとその周囲の流体との相互作用が,マイクロスイマーの泳動に与 える影響を調べる.具体的には,マイクロスイマー同士の散乱に焦点を当て,この系 における散乱角の解析解の導出を試みる.この散乱角の解析解が導出されると,マイ クロスイマーの泳動形態の予測に応用できると考えられる.さらに,マイクロスイマ ーで構成されるアクティブ結晶の生成過程および結晶の変形の理解を試みる.これに より,非自明なマイクロスイマーの集団運動に関する理解が深まると期待される.

東京大学大学院新領域創成科学研究科 石井秀昌

研究課題名:Data Assimilation for Phase-Field Models of Cell Motility
派遣先:Universität Potsdam(ドイツ)
受入研究者:Prof. Dr. Carsten Beta
(用務 1) ポツダムに到着後の 2 週間で,2 月末までの滞在期間中の研究環境を整えて,また研究の方針 や最初に行う作業について受け入れ研究者である Prof. Dr. Beta やDr. Großmann と議論した. それにあわせて,受け入れグループの関連研究のコードやデータを集めて共有してもらった. 本研究で扱う Phase-Field model の状態変数は,各時刻に細胞が空間中に占める領域を表す変 数 phase と,細胞内の細胞成分の濃度に相当する変数である.Phase のダイナミクスが細胞の形態変化と移動を記述し,濃度の時間発展は細胞内での反応拡散といったダイナミクスを表す.Großmann の先行研究[未発表]では,phase-field model における細胞の重心のダイナミクスがすでに導出されている.しかし重心のダイナミクスは濃度のダイナミクスに依存しており,濃度のダイナミクスは問題が定義される領域に相当する phase のダイナミクスに依存する.そのためPhase-Field model を重心のダイナミクスのモデルに縮約するためには,直接 Phase-Field modelを解くことなく,濃度の時間発展を見積もる方法を考える必要がある. 派遣期間中の議論を経て,現在は次のような方針で研究を進めている.
  1. Großmann が導出した重心のダイナミクスの計算を再確認する.
  1. 計算途中で複数の近似によって式を簡単にすることができるが,それぞれの近似が結果に及ぼ す影響を評価するために,2 次元平面上での Phase-Field model を直接解いて正解データを得 て,導出した近似式の精度を検証する.
  1. Phase-Field model では本来細胞の位置・形がともに時間変化するが,これを時間的に一定と みなすと,その中での濃度の時間発展の計算が容易になる.そこで第一歩として,細胞の形が 規則的(円形)で時間発展しないと仮定して,それでも細胞内ダイナミクスによって細胞移動が生じるのか検証する. このモデルでも細胞移動が観察できた場合には細胞内部で細胞成分が 局在することが移動の本質であることが示唆され, そうでなければ細胞の形態の不規則さが細 胞移動の必要条件であることが示唆される.
(用務 2) 9 月 15 日から 20 日まで,受け入れグループが参加する学術プロジェクト SFB1294 Data Assimilation のサマースクールに参加した.関係する学生,ポスドク,教員の多くが参加するイベントで,かなりゆとりのあるスケジュールが組まれていたため,講演を聴くだけではなく個人的にデータ同化の手法について教えてもらったり,自分の研究についてじっくり議論したりできた.生物物理に取り組むグループは少なく,応用数学が専門でデータ同化手法の理論的な研究に取り組むメンバーと,気象・地球物理関連のデータへのカルマンフィルターのようなデータ同化手法の応用に取り組む参加者が多かった.筆者とは研究手法・対象ともに異なるため話が噛み合うまでに時間がかかることも多く,議論に充てる時間が十分に用意されていた恩恵を受けた.今後は,今回の議論を踏まえて縮約後のモデルへのデータ同化を自ら試みることももちろんではあるが,データ同化の研究者が慣れている形で問題を定式化することで,専門家を巻き込んで研究を進める可能性も探っていく.

東京大学大学院新領域創成科学研究科 加藤 祐介

研究課題名:Data-driven parameter estimation and statistical selection of dynamical models that predict cell motility
派遣先:Universität Potsdam(ドイツ)
受入研究者:Prof. Dr. Carsten Beta
滞在先の研究機関へ到着後,受入先の研究者たちと顔合わせを行い,特に Carsten Beta 教授やRobert Grossmann 博士らと研究議論を行って,滞在中に行う研究計画についての確認とより具体的な研究手順を話しあった.また,関連する研究を行っている現地の博士課程学生とも議論を行い,数値シミュレーションに必要なプログラムコードを共有してもらった.さらに,受入先では個人のデスクを用意していただいたため,到着から数日はモニターやケーブルの設置など,研究環境の整備も行った. 今回の共同研究では,滞在先が保有している細胞性粘菌の自発運動に関する計測データを用い て,細胞運動を記述する複数の数理モデルにおけるパラメータ推定とモデル比較を行う予定である. 研究の第一段階として, 比較的シンプルな確率微分方程式モデルを数理モデルとして採用し,各モデルの尤度関数を解析的に導出した後,最尤推定を用いて数値的にパラメータを推定する.その際,用いるモデルによっては尤度関数の計算を注意して行う必要があり,滞在先の博士課程学生とも週に 1-2 回程度の議論を行いながら,研究を進めている.また,ベイズ推論等を応用することで,複数のモデル間での統計的な比較も行う予定である.現段階では, 最も簡単なブラウン運動モデルに関する尤度関数の計算を行った.また, 具体的な数値計算のためのシミュレーションコードの作成を行っている.

東京大学大学院 工学系研究科 助教 谷田桜子

研究課題名:Synchronization in Elevators with Transfers
派遣先:Friedrich-Alexander-Universität Erlangen-Nürnberg (Germany)
受入研究者:Prof. Thorsten Poeshel
本共同研究では、過去に打ち合わせを行った後、数年間停滞していたテーマを遂行しました。この研究テーマは、申請者が2022 年に発表した論文が、今回の受け入れ研究者であるPoeshel 教授の30 年前の研究を基にしていたことがきっかけで、2022 年にメールで議論を行ったことにより再び始まりました。申請者は2022 年中にPoeshel 教授の研究室を訪問し、議論の結果、初期モデルを作成し、予備的な知識を得ていました。しかし、他の業務に追われ、数年間進展がない状態が続いていました。そこで、本テーマの研究に集中し、論文を完成させるために、共同研究者との議論の効率を高めることを目的に、本申請の研究者交流制度を活用して、共同研究先の研究室に滞在しました。共同研究実施中は研究室内に座席を用意してもらい、計算機資源については申請者がこれまで使用していた機器を持ち使用しました。滞在の初週には、自己紹介を兼ねて1 時間半のセミナー発表を行いました。 研究テーマや問題設定の大枠は決まっていたものの、具体的にどの現象を詳細に調べるかは決定していませんでした。そこで、最初の2 週間は、エレベーターに限らず交通系の実際の運行規則を参考にしてモデル化を行い、数値シミュレーションを実施しました。その後、Poeshel 教授と、数値シミュレーションで観察された現象の物理学的な重要性や、問題設定が交通系の効率化につながるかという観点から問題設定の詳細を決定しました。その結果、当初エレベーターを想定していたシステムを、路線バスを含む固定経路と特定の停止点を持つ交通システムへと拡張しました。また、特定の範囲しか移動しない乗り換えが必要な交通だけでなく、全範囲を移動する乗り換え不要な交通も並走させ、部分的な相互作用しか生じない場合に、これまで観察されていた同期現象がどの程度発生するのかを調べることに決まりました。 その後、週に1 度開催される研究室の進捗報告会において、滞在研究室の博士学生とともに進捗状況を報告しました。この機会にPoeshel 教授のみならず、他のメンバーからも質問やコメントを受けることができました。日本の所属研究室では学生のみが進捗発表を行うため、定期的に課題や進捗を他の研究者に説明する機会が貴重であり、今回の共同研究滞在では非常に有意義な時間となりました。滞在先の研究室では主に粉体の数値シミュレーションを研究しており、申請者の研究とは直接的な技術の共通性はありませんでしたが、所属メンバーから積極的に質問やアイデアが出されました。他の研究者に説明することで、研究の前提や仮定を再考し、理解を深めることができました。 最終的に、滞在期間中に行った数値シミュレーション研究の内容を、論文の第一稿としてまとめることができました。さらに、滞在前に参加したエジンバラでのアクティブマターワークショップでの議論を基にしたり、この研究を進める過程で新たなアイデアを思いついたりして、別の論文の準備も進み、大枠が完成しています。これまで論文執筆に苦労していましたが、2 か月ほど適度なプレッシャーの中で集中して取り組むことで、成果を形にすることができました。今後もこの研究の投稿・出版に向けて、引き続き交流を続ける予定です。また、今回の滞在を通じて信頼関係を築けたと感じており、この研究に限らず、新しいテーマでの共同研究も視野に入れながら、今後も研究交流を継続していくつもりです。
 

京都大学数理解析研究所 研究員(PD) 安田健人

研究課題名:Variational principles in stochastic dynamics of soft-active matter
派遣先:温州研究院 (中国)
受入研究者:好村滋行 教授
ソフトマターの非平衡動力学はオンサーガーの変分原理でよく記述できる。この変分原理はオンサーガーが 1930 年頃に展開した不可逆過程の熱力学を土井正男が 21 世紀に再構築したものである。この変分原理は決定論的動力学を与えるが、確率的動力学のためには別の理論の助けが必要であった。一方、1950 年頃オンサーガーとマクラップは確率的動力学の理論も展開したが、この理論の現代的な整備や変分原理的再構築は十分行われていない。近年ではソフトマターのみならずアクティブマターの確率的動力学の理解が重要となっている。そこで本研究課題ではオンサーガー・マクラップ理論をアクティブマターへ拡張し、確率過程における変分原理を整備する。本研究が推進することで、人工的なアクティブマターモデルに指針を与え、対称性の議論から新規の基本定理を与える可能性がある。オンサーガーの変分原理を利用し、ソフト・アクティブマターの研究を行ってきた好村教授と本課題に取り組むことで大きな進展が見込める。さらに、温州研究院には前述の土井教授も在籍しており、有意義な議論ができると思われる。
 

京都大学大学院 工学系研究科 博士後期課程 小林巧弥

研究課題名:Hydrodynamics of Microswimmers
派遣先:University of Cambridge (UK)
受入研究者:Dr. Ronojoy Adhikari
マイクロスイマーは微生物や人工的に作られた自己推進する微粒子などを指し,非平衡統計力学において注目されている.マイクロスイマーの泳動メカニズムや運動パターンを理解するには,流体力学の正確な理解が必要不可欠である.そこで,本研究ではマイクロスイマーとその周囲の流体との相互作用が,マイクロスイマーの泳動に与える影響を調べる.具体的には,マイクロスイマー同士の散乱に焦点を当て,この系における散乱角の解析解の導出を試みる.この散乱角の解析解が導出されると,マイクロスイマーの泳動形態の予測に応用できると考えられる.さらに,マイクロスイマーで構成されるアクティブ結晶の生成過程および結晶の変形の理解を試みる.これにより,非自明なマイクロスイマーの集団運動に関する理解が深まると期待される.
 

千葉大学理学研究院 教授 北畑裕之

研究課題名:Dynamics of pattern formation in nonreciprocal systems and active rotor systems
派遣先:温州研究院 (中国)
受入研究者:好村滋行 教授
勾配系で記述され、安定な平衡状態への緩和過程で相分離ダイナミクスが観察されるような系において、非相反相互作用を導入すると周期的な変化や空間周期構造、乱流など様々な興味深く複雑なダイナミクスが観察されている。そのような非相反相互作用を持つパターン形成系について、普遍的な性質を理解するため、好村教授と数値計算と理論アプローチの両面から研究を進める。また、自己駆動する回転子を流体中に多数分散させた際、その自発的な回転方向のちがいにより流体相互作用が異なり、相分離を起こす可能性が示唆されている。しかし、そのダイナミクスは明らかになっていない。そこで、好村教授および、国科温州研究院で当該研究を実施している若手研究者らと議論し、共同研究として発展させる。
 

千葉大学理学研究院 博士前期課程 楯山裕太

研究課題名:Spatiotemporal pattern formation in continuum gradient dynamics with non-reciprocal interactions
派遣先:温州研究院 (中国)
受入研究者:好村滋行 教授
非相反相互作用は,作用・反作用の法則を破る相互作用として特徴づけられ,たとえば神経系や捕食・被食系において実効的にそのような相互作用をしているとみなすことができる。非相反相互作用のある系では,時空間反転対称性を破った動的な相への非相反相転移が起きることが知られている。スカラー場の秩序変数による自由エネルギー汎関数が単調減少するような勾配系ダイナミクスは,相分離やパターン形成を記述することが古くから知られている。近年になって,勾配系ダイナミクスを非相反な相互作用を持つように拡張したモデルでは,時空間的なパターン形成を示し,それにともなう豊富な分岐構造を持つことがわかり,アクティブマター物理学,パターン形成,分岐理論などの観点から興味が持たれ,盛んに研究が行われている。本共同研究課題では,非相反勾配系ダイナミクスのうち特に非保存系に着目し,非相反勾配系がもたらす非相反相転移や,それにともなう分岐構造に着目して非相反相互作用系の理解を深めることを目標とする。
 

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 博士後期課程 加藤祐介

研究課題名:Data-driven parameter estimation and statistical selection of dynamical models that predict cell motility
派遣先:University of Potsdam (Germany)
受入研究者:Professor Carsten Beta
自然界には,外界との相互作用を通じて自発的に駆動する細胞が存在し,その研究には,モデル生物として,細胞性粘菌の一種である D. discoideumがしばしば用いられる.D. discoideum の自発運動については実験・数理の両面から多数の先行研究があり,特に,その細胞運動を模した様々な数理モデル(ランジュバンモデルや phase-field モデル) が提案されてきた.しかしながら,これらの多数のモデルに関して,データ駆動でのパラメータ推定やモデル間の統計的な比較を行った研究は比較的少ない.本研究では,細胞性粘菌の自発運動を表すモデルを対象に,受入先研究室で測定した計測データからベイズ推論や最尤推定を用いてパラメータ推定を行い,既知データの再現確率(尤度) や未知データの予測精度等の観点でモデルを比較し,最適なモデルを決定する.さらに,最適モデルと計測データとの差異を詳しく検証することで,細胞運動データの統計的性質をより良く再現できる新規モデル構築の可能性を議論する.
 

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 博士後期課程 石井秀昌

研究課題名:Data Assimilation for Phase-Field Models of Cell Motility
派遣先:University of Potsdam (Germany)
受入研究者:Professor Carsten Beta
細胞移動は生物学・医学的に重要であるだけでなく,active particle の例として物理学的な興味の対象でもある.本研究で扱う Phase-Field モデルは,細胞の形態の変化と移動を同時に記述する代表的な数理モデルの 1 つである.中でも本研究では,受入研究者のグループが提案した双安定Phase-Fieldモデル[1]を用いる.モデルの検証のために,実験データとモデルを統合する必要があるが,Phase-Field モデルは多数のパラメータを含む偏微分方程式系であり,パラメータ推定などのデータ同化を行うことが難しい.そこで本研究では, Phase-Field モデルを縮約することで,データ同化が比較的容易な,細胞の重心の動きを記述する Langevinタイプのモデルを導出する.その上で受入研究者のグループが蓄積した細胞性粘菌の細胞移動のデータを用いて縮約モデルに対するデータ同化を行うことで,Phase-Fieldモデルに対するデータ同化を実現することを目指す.

2023

京都大学大学院 工学系研究科 博士後期課程 小林巧弥

研究課題名:Hydrodynamics of Microswimmers
派遣先:University of Cambridge (UK)
受入研究者:Dr. Ronojoy Adhikari
マイクロスイマーは微生物や人工的に作られた自己推進する微粒子などを指し,非平衡統計力学において注目されている.マイクロスイマーの泳動メカニズムや運動パターンを理解するには,流体力学の正確な理解が必要不可欠である.そこで,本研究ではマイクロスイマーとその周囲の流体との相互作用が,マイクロスイマーの泳動に与える影響を調べる.具体的には,球状だけでなく,より複雑な形状を持つマイクロスイマー周辺の流れ場の形成に関する理論的なモデルを構築し,マイクロスイマーとその周囲の流体との相互作用を明らかにする.また,構築したモデルの結果と実験データとを比較し,マイクロスイマーの力学的な特性や挙動をより総合的に理解する.さらに,多体系での流体力学的相互作用を定量的に評価し,流体力学的相互作用が個体に与える影響を明らかにし,集団運動を引き起こしているメカニズムを解明する.
 

千葉大学理学研究院 教授 北畑裕之

研究課題名:Nonreciprocally Coupled Phase Separation with Non-Conserved Order Parameters
派遣先:温州研究院 (中国)
受入研究者:好村滋行 教授
非平衡系のダイナミクスの研究において、相互作用が非相反となる系について最近注目が集まっている。例えば,アクティブマター系でも非相反相互作用により特徴的な時空間ダイナミクスが生まれることが報告されている。今回、非保存系における相分離ダイナミクスを記する Model A に非相反相互作用を導入することを考える。具体的には、ModelA に従う2つの系に非相反相互作用を導入した系につて研究を進める。特に、非相反相互作用を導入することにより、豊かなパターンダイナミクスが得られることを見出している。今回の滞在において、そのパターン形成のメカニズムを議論するための理論解析手法について議論する。また、このような微分方程式で記述される系に非相反相互作用を導入した系と、エージェントベースのモデルで記述されるアクティブマター系に非相反相互作用を入した系との関係についても議論する。
 

東京大学大学院理学研究科 准教授 竹内一将

国際会議名:Building a bridge between non-equilibrium statistical physics and biology
開催場所:University of Cambridge (UK)
講演題目:
 

京都大学大学院工学研究科 教授 山本量一

国際会議名:New statistical physics in living matter: non equilibrium states under adaptive control
開催場所:Isaac Newton Institute for Mathematical Sciences, University of Cambridge (UK)
講演題目:Direct Numerical Simulations (DNS)of active particles in complex environments
 

京都大学大学院工学研究科 教授 山本量一

国際会議名:Advanced core-to-core network for the physics of self-organizing active matter
開催場所:温州研究院 (中国)
講演題目:Direct numerical simulations of active particleswith fully resolved hydrodynamics
 

京都大学数理解析研究所 准教授 石本健太

国際会議名:Advanced core-to-core network for the physics of self-organizing active matter
開催場所:温州研究院 (中国)
講演題目:
 

千葉大学大学院理学研究院 教授 北畑裕之

国際会議名:Advanced core-to-core network for the physics of self-organizing active matter
開催場所:温州研究院 (中国)
講演題目:
 

東京大学大学院理学研究科 助教 西口大貴

国際会議名:Advanced core-to-core network for the physics of self-organizing active matter
開催場所:温州研究院 (中国)
講演題目: